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能登半島地震・被災地ルポ

石油の供給維持に奮闘

 石川県の能登半島地震で大きな被害が出ている奥能登へ10~11日に入った。道路は至る所に亀裂が走り、陥没や段差だらけ。崩落箇所も数多く、家屋倒壊現場では捜索活動が続けられていた。SSも多くが被災したが、営業を再開し、ライフラインの復旧や支援物資の搬送にあたる車両に燃料を供給しているところも。一方で、事業再開の見通しが立たず廃業を決めたSSもあり、今回の地震がもたらした被害の深刻さを実感した。

亀裂が走るフィールドで給油する緊急車両(今村石油)
亀裂が走るフィールドで給油する緊急車両(今村石油)

 七尾市の今村石油(ENEOS系)はフィールドが20センチ近く沈下、アイランドとの接合部分に亀裂が入った。防火壁は2ヵ所で崩れ、隣家に倒れかかった。サインポールからは看板が落下、洗車機も傾いた。
 ただ、地下タンクと配管は無事だった。4日に営業を再開すると、地元の人たちが未明から列をつくった。5日からはローリーによる配送も届くようになり、全国から応援に駆けつけた緊急車両もひっきりなしに給油に訪れていた。
 徳間政則専務と4人の従業員は全員、自宅も被災した。避難所で寝泊まりしながら給油と避難所への灯油配達をこなしている。徳間専務は「最初、店の状態を見たときはだめかと思った。再開できてほっとしている。時間がかかるだろうが、力を合わせて乗り越えたい」と話した。
 珠洲市の砂山石油(ENEOS系)は防火壁が倒れたが、事務所や地下タンクはかろうじて損傷を免れた。停電で計量機が使えない中、手回しポンプで営業を続けていた。
 砂山準一社長によると、周辺の住宅は2軒に1軒が全壊し「お客さんは10分の1になってしまった」。今後、電気が戻っても水道の復旧は何年も先になるという。洗車はおろかトイレも使えず、顧客の減少で利益も見込めないが、「地域の利便性を考えれば、必要なスタンド。やめたくてもやめられない」。
 同市の道下石油(ENEOS系)は地盤が隆起、地下タンクが浮いて配管が損傷し、計量機も傾いた。営業が再開できる状態になく、店を閉めてタンクから残油を抜き出した。プロパン販売も行っていたが、配達先の7割が倒壊した。「被害が余りに大きく、事業継続は不可能」と道下泰彦社長。創業51年になるSSの廃業を決断した。今後は保険事業だけを続け、プロパン事業は譲渡先を探すという。
 同市の越後石油(出光系)では、タンク内に残った灯油と軽油を住民に無料で配っていた。周囲の道路は波打ち、集落には倒壊家屋が目立つ。「これまでの感謝の気持ちを込めて。皆が困っているときだから」と越後英明社長。震度6強を記録した昨年5月の地震とは比較にならない被害に、62年の会社の歴史に幕を下ろす決断をした。
 津波による浸水は奇跡的に免れたが、激しい揺れで地下タンクが浮き、配管が損傷。レギュラーガソリンは出し入れできなくなった。地上タンクも傾き、敷地周囲の擁壁も崩れた。だが、それ以上にこたえたのは地元の被災状況。もともと高齢者が多く、助かった人も再建をあきらめ地元を離れた。「住む人がいなければ商売は続けられない。こんな形で終わるのは残念だが、これも人生」と越後社長。
 今後は事業整理を進め、顧客から預かった約180台分のタイヤ交換が終わる春には廃業するという。「従業員3人の再雇用先は責任を持って見つけたい」。
 穴水町の穴水石油(PB)は敷地全体が海側にずれ、キャノピーの支柱も傾いた。フィールドには大きな亀裂が走り、防火壁が崩落。車2台を押しつぶした。地下タンクや計量機は損傷を免れたため、在庫があるうちは営業を続けるが、従業員は「改修は困難で、廃業の方向」と話した。