東北 時事・話題 特集

能登半島地震から1ヵ月 実証された分散型拠点の重要性②

被災堪え続く懸命の供給

 能登半島地震から1ヵ月半。甚大な被害を受けた石川県内の被災地では、災害時に備えた日ごろからの防災訓練を生かして営業を続けるSSや、営業を続けてほしいという顧客からの強い要望などを受けて、再開に向けて動き始めたSSがある。一方で、損傷した設備改修の目途が立たず、いまなお再開時期が見通せないSSもあるなど、復旧にばらつきが目立っている。自らが被災者でありながら、被災地の復旧・復興に欠かせない石油製品の供給という社会的使命を背負いながら、懸命に努力する石油販売業者の姿を追った。

警察車両等への給油を続ける舞谷商店(穴水町)
警察車両等への給油を続ける舞谷商店(穴水町)

避難所から通い営業継続・依頼殺到で遅れる修理・生きた4ヵ月ごとの訓練

■七尾市
 七尾市役所に近いオガタ小丸山公園SS(ENEOS系)には目立った損傷はないが、入り口にはロープが張られ、「施設点検のため休業」の看板が立つ。軽油の地下タンクに水が混入したのだという。修理を頼んでいるが、依頼が殺到していて「半年待ちの状態」。営業再開の時期は見通せない。
 約1キロ離れた丸一石油セルフこまるやま台店(ENEOS系)も店を閉じたままだ。レギュラーと灯油タンクの通気管が損傷、「気密検査でアウトと判定された」(吉岡英一郎社長)。土間にもひびが入った。
 SSは七尾署の斜め向かいにあり、緊急車両の給油拠点になっていたはずだった。同社の7SSの中でも主力店だけに、「経営的にも痛手。早く再開したいが、施工業者に依頼が殺到、工事着手のめどが立たない。補助金はありがたいが、工事が早く進む手立てを講じてもらえればもっとありがたい」と吉岡社長は話した。

■穴水町 
 穴水石油(PB)では、倒れた防火塀の撤去作業が行われていた。
 背後に海が迫る同SS。敷地全体が海側にずれ、キャノピーの支柱も傾いた。土間には大きな亀裂が走り、防火塀は2ヵ所で倒壊。車2台が下敷きになった。事務所の壁や柱も歪んだが、2007年の地震後に更新した地下タンクと配管は奇跡的に無事だった。
 「一時は廃業も考えたが、お客さんからはなくなったら困る、続けてほしいと声を掛けられた」と堀内憲治社長。こうした顧客からの切実な声に加え、経営する建設会社で重機用の給油施設が必要という事情もあり、規模を縮小して存続することを決めた。
 今後半年ほど休業し、防火塀とキャノピーを撤去。敷地と事務所などの配置を見直し、コンパクトなSSへとリニューアルする計画だ。費用は約3千万円を見込むが、「補助金が活用できるならありがたい。地域の思いにも応えられる」と、国等の支援に期待を寄せる。

■輪島市
 観光名所「朝市通り」周辺が大火に見舞われた輪島市。焼けたがれきが残るエリアから約2キロ離れた輪島丸善サンライズ杉平SS(コスモ系)では、従業員が次々に訪れる車の給油に追われていた。
 地震が起きた元日も営業中だった。停電になって店を閉めたが、翌日は朝から非常用発電機で計量機を動かし、水の混入の有無などをチェック。異常なしを確認すると「災害対応SSとしての役割を果たすため」(西正一販売部長)、午前8時には店を開けた。
 緊急車両限定とし、一般車両の給油は断った。周囲にはすでに多くの車が並び、声を荒らげるドライバーもいたが、従業員が事情を説明すると多くは理解を示してくれたという。
 道路の復旧が進み、大型ローリーが通れるようになった4日目からは緊急車両とレーンを分けて、一般客への給油を再開。計量機には上限2千円と記した紙も張り出した。
 西部長によると、混乱する状況下で比較的冷静に対応できたのは、設備が無事だったことに加え、4ヵ月ごとに行っていた防災訓練が大きいという。「全員使えるようにするため毎回発電機を作動させ、分電盤の切り替え手順などもパウチ加工して共有していた。珠洲市周辺では以前から地震が頻発しており、防災意識も高かった」と話す。
 現在は市内にあるもう1店を閉め、被災して出社できない6人を除く十数人全員が同SSで勤務する。交代で休める体制を取りながら営業を続けることで、地域の復興を支えていくことにしている。